福島家庭裁判所郡山支部 昭和39年(家)1233号 審判 1966年1月10日
申立人 山田サキ(仮名) 外二名
相手方 山田文男(仮名) 外一名
主文
被相続人山田吉男の遺産を次の通り分割する。
一、別紙第五目録記載の不動産は相手方山田シズコの所有とする。
二、別紙第六目録記載の不動産は申立人山田サキの所有とする。
三、相手方山田シズコは
1、申立人山田サキに対し金一八六万一、〇〇〇円を
2、申立人本田タケコ、同井口サヨコ及び相手方山田文男に対し金一二六万六、五〇〇円宛を各昭和四一年七月三一日限り支払うこと。
四、審判費用中、鑑定人三部義輝に支給した金三万円は、これを十分しその一を申立人山田サキ、その九を相手方山田シズコの各負担とし、その余の調停及び審判費用は各自負担とする。
理由
第一、本件申立の要旨
山田吉男は、昭和三一年九月一一日、福島県郡山市○○町○○字○○二五番地(当時福島県田村郡○○村大字○○字○○二五番地)で死亡したので、相続が開始したが、その相続人は、妻の申立人山田サキ、長女の申立人本田タケコ、二女の申立人井口サヨコ、養子の相手方山田文男と山田シズコの五名である。
ところで、亡吉男の遺産は、別紙第一ないし第四目録記載の不動産である。
ところが、相手方山田文男は、本件相続人間に、別紙第一目録記載の不動産は、相手方文男、別紙第二目録記載の不動産は相手方山田シズコ、別紙第三目録記載の不動産は申立人山田サキが夫々取得することとする遺産分割協議が成立したとなし、遺産分割協議書を偽造し、昭和三二年七月三日、文男が別紙第一目録記載の不動産、シズコが別紙第二目録記載の不動産、サキが別紙第三目録記載の不動産を夫々相続に因り取得した旨の登記をした。
申立人等は、相手方等に対し遺産分割の協議を求めたが、調わないので分割の審判を求めるというのである。
第二、本件調査の資料
家庭裁判所調査官の調査報告書(申立人山田サキ、相手方山田文男、同山田シズコ)記録編綴の戸籍謄本、登記簿謄本、判決正本の写、申立人山田サキ、同本田タケコ、同井口サヨコ、相手方山田シズコ、本田吉男、山本良男、大岩ルミ各審問の結果、鑑定人三部義輝の鑑定の結果等を調査の資料とした。
第三、相続人
一、申立人山田サキ
被相続人山田吉男の配偶者であり、被相続人との間に、二男二女を儲けたが、長男久男と二男春男は、共に大東亜戦争で相次いで戦死又は戦病死したため、農業を経営する山田家の後継者として昭和三一年八月二四日、被相続人の甥に当る相手方文男とシズコを夫婦養子とし、相手方等と共に、祖先伝来の別紙第一目録記載番号一〇五の家屋に居住し生活を共にしてきたのであるが、夫吉男亡きあと、相手方文男が、本件遺産の大部分につき自己及び妻シズコの所有とする遺産分割協議が成立したとなし、夫々その所有名義に登記をしたため、昭和三三年申立人等が原告となり、相手方等を被告として所有権移転登記手続抹消請求の訴を提起したところから、申立人等に対し憎悪の念を抱くようになり、加えて怒りぽい文男の言動は、老齢のサキには殊の外、身に泌みて、特に文男との同居に堪えかねたものの如く、昭和三三年五月頃から山田家を出て、肩書地の大岩ルミ方に身を寄せるに至り、少額ながら、遺族扶助料を唯一の生活の資として佗しく老後の余生を送り現在に至つている。
二、申立人本田タケコ
被相続人及びサキの長女で、昭和六年四月二日、本田吉男と婚姻し、家業の菓子製造販売業に従事している。
三、申立人井口サヨコ
被相続人及びサキの二女で、昭和一八年四月一三日、井口美男と婚姻し、夫美男は農業用作業衣等の仕立販売業をしている。
四、相手方山田文男
昭和二五年二月二五日、相手方山田シズコと婚姻し、前記のように昭和三一年八月二四日、シズコと共に被相続人及びサキの養子となつたが、特に被相続人亡きあとは、家を外にして山田家の農業に精進することなく、現在肩書地に情婦山本イシと同棲し、金融業を営み、昭和四〇年七月頃、イシとの間に男子を儲けた。
五、相手方山田シズコ
相手方山田文男の配偶者であつて、昭和三一年八月二四日、文男と共に被相続人及びサキの養子となつた。夫文男の不行跡にも堪え忍びながら、山田家の農業経営の主体となつている。
第四、遺産及びその評価額
調査の結果、被相続人山田吉男の遺産と認むべきものは、別紙第一ないし第四目録記載の不動産であつて、現在における価額は、金七五九万九、〇〇〇円と評価する。
ところで、相手方等は、本件遺産のうち、別紙第一ないし第三目録記載の不動産は、本件共同相続人間で、文男、シズコ及びサキの各所有とする遺産分割協議が成立したので、夫々その所有名義に登記したものであると主張するが、これを肯認するに足る資料は全くなく、却つて本件資料によれば、相手方文男において、擅に本件共同相続人全員の作成名義による遺産分割協議書を作成し、これに基いて昭和三二年七月三日、別紙第一目録記載の不動産につき相手方文男名義、第二目録記載の不動産につき相手方シズコ名義、第三目録記載の不動産につき申立人サキ名義の夫々相続に因る所有権移転登記がなされたものと認められるので、右不動産は、もとより本件遺産分割の対象となるものと謂わなければならない。
第五、相続分
本件遺産の価額は、前記のとおり、金七五九万九、〇〇〇円であるから、この額を基本として本件相続人の相続分を算定すると
一、申立人サキは、金二五三万三、〇〇〇円
二、申立人タケコ
三、申立人サヨコ
四、相手方文男
五、相手方シズコは、各自金一二六万六、五〇〇円
となる。
なお、本件共同相続人中には、被相続人から遺贈を受け又は贈与を受けた者がないので、夫々法定相続分によつて分割する。
第六、分割の実施
以上認定の事実に、本件遺産は、その大部分が農業資産であること、本件相続人等の住所、職業、年齢、生活状態、本件農地の所在場所その他一切の事情を考慮し
一、相手方シズコは、前記のように、本件相続人中、只一人山田家の農業を孜々として経営しているものであるから、その農業経営に支障をきたさないよう、別紙第五目録記載の本件遺産の大部分の不動産は、総てこれを同人の所有とし
一、被相続人の妻である申立人サキには、別紙第六目録記載の不動産を同人の所有とし
て夫々分割取得させるのを相当と考える。
なお、別紙第六目録記載の番号三及び四の宅地、五及び六の畑は、執れも番号一の建物の敷地である番号二の土地に隣接するものであり、番号七の田は、右の建物の所在地から最も近距離に所在するものである。
以上のように、本件遺産のうち、一部の田や畑も申立人サキの所有として分割したのであるが、既に老齢に達したサキにおいて自ら耕作することは困難であろう。
併しながら、サキは、被相続人の配偶者として数十年の永きに亘り山田家の家業に精進したものであり、而も夫吉男亡きあと、相手方文男との同居に堪えず祖先伝来の山田家を出て肩書地の大岩ルミ方に身を寄せるに至り、而も我が家の相手方シズコ等から一片生活扶助の手さえさしのべられないまま飯米にも窮しながら老いの身を送つている状況を想うとき、今にわかに全く田、畑を失わすことは洵に憫然たるものがある。
サキにおいて、自ら田、畑を耕作することができないとしても、他に親族等の補助者を得て耕作することは少しも難事ではないものと考え、本件遺産中の一部の田、畑をサキに分割取得させることとした。
一、以上のように、申立人サキと相手方シズコにおいて、本件遺産を分割取得するにおいては、次のように他の相続人が本件遺産につき配分を受くべき価額との過不足を生ずるに至る。
即ち
相続人 分割を受けた価額 過不足
(一)申立人 山田サキ 六七万二、〇〇〇円 〔不足〕一八六万一、〇〇〇円
(二)同 本田タケコ なし 〔不足〕一二六万六、五〇〇円
(三)同 井口サヨコ なし 〔不足〕同
(四)相手方 山田文男 なし 〔不足〕同
(五)同 山田シズコ 六九二万七、〇〇〇円 〔超過〕五六六万〇、五〇〇円
それで相手方シズコは
(一) 申立人山田サキに対し金一八六万一、〇〇〇円
(二) 申立人本田タケコ
同井口サヨコ
相手方山田文男の三名に対し各金一二六万六、五〇〇円
を支払うことにより、その過不足を是正することができるが、右金員の支払については六ヵ月の猶予を認めるのを相当と思料せられる。
なお審判費用については、主文第四項のように負担させるを相当と認める。
それで、主文の通り審判する。
(家事審判官 木村精一)
目録<省略>